菌床椎茸と原木椎茸
日常、各家庭でも消費することの多い椎茸。普段食べている椎茸がどのようにして生産されているのかご存知ですか?
切り揃えられた木の幹にニョキっと椎茸が生えている様子を想像された方も多いかと思いますが、これは「原木栽培」。一般的に売られている椎茸はほとんどが「菌床栽培」という栽培方法で作られています。菌床椎茸は、おがくずを水や栄養剤を含めて固めたものに椎茸の菌を植え付けて作ります。生産量は原木椎茸の3〜4倍、生産時間は三分の一ほどでできます。このため、ほとんどの生産者さんが菌床椎茸を栽培しています。
ところが、自然環境に近い原木椎茸、やはり味は全然美味しく、一部の生産者さんはこの原木栽培に拘って生産しています。やはり美味しい椎茸を…。そんな思いから手間をかけてでも原木に拘る神奈川県相模原市の椎茸農家、吉村さんの畑を訪ねてみました。
原木椎茸の栽培
きのこの旬は、みなさんご存知の通り、秋です。けれど、量は少なくなっても真夏の暑い時期以外は育ちます。私が訪れた5月半ばにも、かわいい椎茸がたくさん付いていました。「これが秋になるとポンポン出てくるんですね?」と尋ねると、「ポンポン、じゃないよ、ボワッと!」と球を作るような手振りで答えてくれました。椎茸の菌が棲んでいる原木を仕入れ、日陰の涼しいところで保管します。原木に程よい間隔で椎茸の菌を植えていくと、その菌が根を伸ばすように原木全体に菌を広げていきます。
この切り口の白い部分が、椎茸の菌が広がった部分なのだそうです。この白い部分が木の全体に行き渡るのが理想ですが、こればかりは原木にお任せするしかないのだそうです。より良い環境に近づけるよう、人の手でお手伝いをしていきます。都合よく椎茸の菌だけが育ってくれるわけではありません。木の栄養分を横取りしてしまう他のきのこがついてしまうこともあります。
これはゴム茸。
毒はありませんが、食べられないそうです。カビや、椎茸の菌に悪影響を与える菌にも注意。夏の間は日陰で寝かし、散水と風通しを繰り返しながら原木の菌を育てていきます。いよいよ準備が整うと、ハウスに綺麗に並べて栽培が始まります。ここからも、放っておくわけではありません。温度と湿度を保ち、年に数回、原木を一本一本水に浸します。一本、20kgくらいはあるでしょうか?重い原木を手作業で水に浸すのだそうです。多い時には一万本も扱っていたという吉村さん。気の遠くなるような作業です…。原木の種類と、いつ水に浸したかわかるようにタグをつけて管理します。
原木は、2〜3年が寿命。(樹命??)
三年目になると、椎茸の数が少なくなってきます。こうなると原木は役目を終えます。
原木椎茸へのこだわり
2011年3月11日、東日本大震災。福島第一原子力発電所の事故。この影響により、福島県内の原木は全て出荷停止になってしまいました。
「福島の原木は良い。しっかり太くてまっすぐなんだ。」
仕入れ先を失った吉村さんは、代わりになる原木を探して回りました。福島だけではなく、北関東一円の原木はほとんどが出荷停止、今では長野や山梨から仕入れているといいます。原発事故は椎茸農家にとってはかなりの痛手でした。それでも原木での栽培をやめなかったのは、やはり味の違い。菌床では絶対にこの味にはならない。
美味しいものを作りたいという吉村さんが、拘って譲れない部分なのでしょう。
「菌床と原木の違いは天ぷらにするとよくわかるよ」
少し陽に当ててから調理すると旨みが増す、とのアドバイスにより、小一時間外に出してみました。そして早速調理!しっかりとした歯ごたえと、奥からじわっとにじみ出る美味しさ、ふくよかな椎茸の香り。なるほど、吉村さんが原木に拘るわけがわかりました。夏はキクラゲ、そして旬の秋にはなめこや平茸も生産されるとのこと。また秋に訪れ、今度は旬ならではのお話を伺ってみたいと思います。
今から茸づくしの食卓が楽しみで仕方ありません。