本当に美味しいちゃ豆は、ちゃ豆と枝豆の違いを教えてくれる。/ちゃ豆農家・渡部さん

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山形県酒田市の「ちゃ豆」農家・仁助屋の渡部さん

日に焼けた黒い肌、ガッチリ逞しい大柄な身体、言葉数は少ない。ちょっと怖い人なのかな…と恐る恐る近づいてみたら、シャイな人でした。酒田市でちゃ豆農家を営む「仁助屋」の渡部さんは、8月のカンカン照りがよく似合います。大きくてつぶらな瞳。森のくまさんのイメージです。美味しいものは美味しい、ダメなものはダメ、言い訳をしない。決して多くない言葉の中には、直球勝負で裏表のない誠実さがギュッと詰まっていて、ちゃ豆のことを聞くと、嬉しそうに丁寧に教えてくれます。

ちゃ豆農家仁助屋の渡部さん

仁助屋では、在来種のだだちゃ豆から良い豆を選別し、毎年20品種ほど作付けをしています。平地から鳥海山麓までの高低差のある畑で時期をずらしながらリレー栽培を行うことで、通常は8月下旬までのところ、9月下旬頃までちゃ豆を出荷しています。リレー栽培は、畑がたくさんあればできるというわけではありません。畑ごとの特徴と豆の品種特性、生育状況、天候などすべてを見極め育てる技術があってこそ、本当に美味しいちゃ豆を世に出せるのです。まるで一流のスポーツ選手を育てる監督です。
仁助屋のちゃ豆づくりには渡部さんのご家族も欠かせません。渡部さんと体格はそっくり、明朗で暖かく見守るお父さん。正反対にとっても小柄、明るく、ちゃきちゃき動き回るお母さん。みんなちゃ豆が大好きな、チーム・仁助屋です。

ちゃ豆収穫体験

ちゃ豆畑

午前5時。
朝日がまだ山の向こうに隠れている頃、朝露に濡れるちゃ豆の収穫が始まります。「結構きついっすよ」と、渡部さんに言われたにも関わらず、私は「お手伝いをさせてください!」と、マイ長靴に長袖長ズボン、タオルを巻いて準備万端、意気込んで畑に向かいました。畑の中はさあ大変。収穫期の畑はちゃ豆が鈴なり。ちゃ豆のジャングルなのです。どこから手を出してよいものか…やっとよさそうな枝を見つけて、「いざ!」と力を入れて見るものの、なかなか抜けません。

ちゃ豆の収穫体験

朝露で湿った粘度質の土はなかなかのくせ者です。おそるおそる慎重に引っ張ってもちゃ豆の根っこはびくともしないどころか、周りの泥ばかりが跳ね返って来て、自分が泥だらけになるだけ。大地にしっかり根が張っており、枝も相当な重さです。膝を曲げ、腰を落として力を入れて一息に抜き、勢い良く叩いて根っこの土を落とします。
イチニ、イチニ、イチニ…一定のテンポで軽快な渡部さんはその大きな身体にバネでもあるのかというほどスイスイ進んで行きます。それにひきかえ、いちにーさん、いっちにーさん、いっちにーさん・・・しーご…の私。やっとのことで5つほど引っこ抜いて、顔を上げると、渡部さんは遥か彼方、1列抜き終わっていました。足腰ガクガク、泥だらけになりながら30分程で収穫体験を終えました。忠告通りの大変さです。美味しいちゃ豆を食べられるのはこの重労働があってのこと、本当に「ごちそう」だと思いました。収穫体験は私にとっても貴重な体験でした。残念ながら、あまりお手伝いにはなっていませんでしたけど。

仁助屋の「ちゃ豆」が教えてくれる、ちゃ豆と枝豆の違い

仁助屋のちゃ豆

ある時、仁助屋のちゃ豆を茹でているところにたまたま食品メーカーの開発担当の方が遭遇し、あまりの香りの良さに「これはどんなちゃ豆なのですか?こんなに良いちゃ豆の香りははじめてです!」と驚いたと言います。また、埼玉県にある公立中学校で給食にちゃ豆を出した時には、箱を開けた瞬間に、給食室にちゃ豆の香りが広がり、子どもたちも「いつもとちがう枝豆だ!」と大喜び。先生たちも、「ビールが飲みたくなる」と。今年も仁助屋の渡部さんから、そんなごちそうの「ちゃ豆」が届きます。収穫してから日が経つと甘みも香りもぐっと落ちてしまいます。穫れたてをなるべく早めに茹でてお召し上がりください。
本当に美味しいちゃ豆は、「ちゃ豆」と「枝豆」の違いを教えてくれます