春の訪れを告げる「菜の花」
冬を超えて暖かくなると小さな黄色い花を咲かせる「菜の花」。鮮やかなレモンイエローとグリーンのコントラストがきれいな花畑は、観光スポットとして賑わっているところも多く春の風物詩にもなっています。
そんな菜の花は、観賞用とは別に若いうちのやわらかい花茎やつぼみの部分を食用とするものがあり「菜花(なばな)」「折菜(おりな)」「とうたち菜」などといった名前で出回ります。観賞用も食用も元々は同じ菜の花ですが、食用は観賞用に比べて苦味やアクなどが少なく何度も収穫することができたりつぼみの大きさが揃っているなど食用向けに改良されているものも多くあります。
菜の花は、暖かくなってとう立ちして出てきた若芽のことをいいますが、若いつぼみや葉茎はやわらかく、ほのかに甘みがあり独特の苦みと香りを感じられるのが特徴です。今では周年出回っている菜の花ですが、出荷量が多くなるのは12月から翌4月にかけて。食用は若い茎やつぼみを食べるので開花時期よりも早い時期に収穫されます。
菜の花って何の花?
菜の花というと"小さくて黄色い春の花"を思い浮かべますが、じつは「菜の花」という植物はなく花の名前でもありません。菜の花とはアブラナ科アブラナ属の花の総称で、元々はアブラナ(油菜)という油を搾取するために栽培される作物のことを指していましたが、アブラナ科の花はどれも似通っているため今ではアブラナ科の若芽のことを「菜の花」と呼んでいます。
畑に咲いている菜の花をよく見ると、キャベツや白菜などの冬野菜から茎が伸びて花が咲いている光景を見ることがありますが、じつはキャベツも白菜アブラナ科の野菜でどちらも黄色い菜の花を咲かせます。ほかにも高菜、からし菜、ブロッコリー、カリフラワー、かぶ、大根、水菜、青梗菜や、花であれば葉牡丹などもアブラナ科の仲間だったりします。どの花も花弁が4枚あり十文字に咲くことから「十字架植物」とも呼ばれることも。
花弁の色も黄色以外にも白や紫の花を咲かせるものもあります。アブラナ科の中で白い花を咲かせる野菜といえば大根を思い浮かべますが、品種によっては白地に紫色の花を付けるものもあったりします。野菜や花などの品種、花の色がそれぞれ違っていてもアブラナ科の花はみんな「菜の花」なんです。
種から搾油する「菜種油」
菜の花の原産地は、北ヨーロッパからシベリアにかけて。日本へは中国を経て弥生時代に伝わったといわれています。日本にある菜の花は、地中海沿岸からトルコ、イラン、アフガニスタン近辺を原産地とするアブラナ(在来種)と、アブラナとキャベツ類の交雑したものからヨーロッパで生まれたナタネ(西洋種)のふたつがあります。始めは野菜として食べられていましたが江戸時代に入ってから菜種油の搾油が始まり、当時は行灯の燃料として用いられていたそうです。
菜種は3月から4月にかけて花をつけて満開期を迎え花が咲き終わると結実します。種は豆のサヤの中に入っていて熟すると茶色くなり、6月中旬以降になると収穫時期を迎えます。収穫した種は圧搾機で搾油して上澄みをろ過しますが、こうして作られた絞りたての菜種油は黄色い菜種色をしているのが特徴でほのかに菜の花の香りが感じられます。
日本の俳人、与謝野蕪村(よさぶそん)の名句「菜の花や月は東に 日は西に」、小林一茶(こばやしいっさ)の「菜の花の とつぱづれなり富士の山」という名句は、辺り一面に広がる菜の花畑から生まれたそうです。どちらの俳句も菜の花が一面に広がっている光景が目に浮かびますね。観賞用としてだけでなく食べてもおいしい菜の花。目で見て食べて、旬を味わいながら春の訪れを感じてみませんか。
菜の花って生でも食べられるの?文・野菜ソムリエ・ナチュラルフードコーディネーター 桜井さちえ