不人気だった昔のきゅうり
爽やかな瓜の香りと歯応えがおいしいきゅうりですが、中には青臭さを感じて苦手な人もいるのではないでしょうか。今こそきゅうりは誰もが知る代表的な野菜ですが、古い文献には「下品の瓜」とか「田舎に多く作るものなり」などと書かれていたりと昔は人気が今ひとつだったようです。さらにはきゅうりの断面が徳川家の葵の紋に似ていることから武士達がおそれ多いと言って食べなかったともいう話しも。
そんなきゅうりの原産は、インド北部、ヒマ山麓からネパール付近。紀元前120年頃にシルクロードを渡って中国へ渡り日本に伝わりました。日本では江戸時代頃まできゅうりの苦味が好まれていませんでしたが、品種改良が進んだ明治時代以降から栽培が盛んになったといわれています。
きゅうりが苦い原因
皆さんはきゅうりを食べて苦いと感じたことはありますか?じつはあの苦みは「ククルビタシン」というきゅうりに含まれている苦み成分が関係しています。このククルビタシンがエステラーゼという酵素の働きによってアグリコンという苦み成分になり苦みが出るといわれています。きゅうりの皮のすぐ下に水や養分などが流れる維管束という管があり、その管を流れる液の中に「蟻酸(ぎさん)」という物質が含まれていますが、蟻酸はウリ科の野菜に含まれるステロイドの一種できゅうりのアクの元になる渋み成分。
昔、おばあちゃんやお母さんがきゅうりのヘタの部分を切って塩をふりこすりつけているのを見たことがあると思いますが、ヘタの辺りにたくさん苦味成分が含まれていることから以前は切り捨てて食べていました。今では苦味が出にくい品種が出回っているためあまりやらなくなりましたが、ヘタの切り口に塩をふりこすり合わせることでアクが抜け、維管束が刺激されて苦味やえぐみが流れ出てきます。ククルビタシンや蟻酸は少量なら摂取しても問題ありませんが、たくさん摂取してしまうと食中毒や吐き気、下痢などを起こす可能性がある成分なので食べたときに強い苦みを感じたら食べるのはやめた方が良いでしょう。
きゅうりの板ずり
まな板の上で軽く塩を振ってまな板に押し付けながら転がすこと「板ずり」といいます。板ずりをする野菜はいろいろありますが、例えばオクラの場合だと表面の産毛とりだったり、ふきだとアクを抜いて皮を剥きやすくするためなど目的もそれぞれです。きゅうりの場合は表面のイボをとってなめらかにしたりアクなどの苦味やえぐみを抜いたりする目的がありますが、皮についた傷に塩が入ることで浸透圧の変化で水分が2~3割ほど抜けて柔らかくなります。皮はかたくて味が馴染みにくいですが、板ずりをすることによってドレッシングなどの調味料が染みやすくなったり表面の色が鮮やかになる効果も。
きゅうりをスライスして塩をふり軽くもむ方法も、板ずりと同じで塩もみすることで青臭さが和らぎます。この場合も塩の浸透圧で水分を出し、しんなりしたところで苦み成分も一緒に手で絞り出します。このとき水気がたれてこなくなるまでしっかりと水分を出すことがポイントです。よく絞れていなかったり、塩もみせずに調理してしまうと他の調味料に含まれる塩分によって水が出てしまい水っぽい料理になってしまうことがあるので注意しましょう。
いかがでしたか?きゅうりに含まれる苦味成は食べ過ぎると体に不調を起こしてしまう可能性がありますが、ちょっとしたひと手間で簡単に苦味成分を抜くことができます。きゅうりの苦味や青臭さが苦手だったり、苦いきゅうりにもしあたってしまったときは、今回ご紹介したアク抜き方法を試しておいしくきゅうりをいただきましょう。
文・野菜ソムリエ・ナチュラルフードコーディネーター 桜井さちえ