「ありがとう」のためなら頑張れる
お祖父さんの代から50年以上続く「長谷ぶどう園」を継いで4年目。長谷真里さんは、さぬき市志度でピオーネやシャインマスカットなど3品種のぶどうを栽培しています。「5年前、農園を経営していた父が体調を崩してしまったんです。赤ちゃんの頃からある農園がなくなるのは寂しくて、私が継ぐことにしました」。エステティシャンの仕事を辞め、1年間香川県立農業大学校へ通ったのちに就農しました。
「エステの前はツアーコンダクターの仕事をしていましたが、やりがいはどちらも、お客様から『ありがとう』『また長谷さんにお願いしたい』と言われること。農業も同じです。いろんな人と巡り合って、リアルで触れ合って、喜んでもらいたいんです」と長谷さん。現在は8割が直接販売。顔の見えるお客様から「おいしい」「また来年もお願いね」と言われることが何よりのモチベーションです。
ぶどうは秋に収穫されるのが一般的ですが、長谷さんは、お盆に焦点を合わせて逆算し、8月の中頃に完売するように栽培しています。「孫が田舎に帰省したときのおやつや仏壇のお供えなど、みなさんが本当に欲しい時期においしくなるように作っています。そして私は、夏にもらった『ありがとう』の言葉を糧にして、その栄養でまた1年間栽培を頑張るんです」と笑顔を見せてくれました。
地域の活性化のためにできること
今の課題は、収益を上げること。「増益だけを考えれば都心のデパートなどに卸せばいいのですが、うちの農園が儲かればそれでいいわけではありません。私の目標は、地域の活性化。農業はその手段なんです」と力強く話す長谷さん。地域の活性化のためには、栽培面積の拡大や従業員の雇用も視野に、農園が一定の収益を確保する必要もあります。旅行会社やエステサロンで働く中で培ってきた販売やサービスの力を生かして、販売の強化にも取り組みたいと話します。
また、農福連携にも積極的です。市内の障害者就労施設のスタッフと連携し、どんな作業なら依頼できるか、工夫をしながら利用者が仕事できる環境づくりに取り組んできました。「お客様に喜んでもらう商品開発や地域の耕作放棄地の再生、同園で働く人の環境や待遇の整備。微力だけど、少しずつ広げていきたい」とさらに遠くを見据えています。
6次産業化で一年中楽しめるぶどうを
最近では、勉強会で学んだ経営術を生かして6次産業化にも挑戦。ニューピオーネを使った大粒のレーズンや濃厚なジェラート、甘酒を開発・販売しています。レーズンはもともと、色づきが遅かった年の2級品を生かして加工品を作れないかとSNSで発信したところ、アイデアをもらってスタートしたもの。2年の試作を経て半生タイプのレーズンが生まれました。パッケージデザインやターゲット設定など、マーケティング戦略も万全で売り出したところ、おいしいと評判に。今では2級品ではなくレーズン用に栽培したピオーネを使用しているそう。「生のぶどうの季節はたったの2ヶ月。シーズンが終わってもぶどうを楽しんでほしいですね」。
レーズンやジェラート等を手に、県内のマルシェにも出店し、「来年もおいしいぶどうを作るから待っててね」とお客さんとのやりとりを楽しむ長谷さん。地域の人が笑顔で幸せになれるように、そして笑顔になる人が少しでも増えるようにという願いを込めて、新たな挑戦を続けています。