うれしい特別なくだもの「桃」
やわらかくキラキラと輝く短い産毛に身をまとった果実・桃。肌色から薄紅色、そして紅紫のグラデーションは、赤ちゃんのやわらかいほっぺそのもの。「やさしくしてね」という声が聞こえてきそうです。子どもの頃、林檎や梨の皮むきはたくさんしました。お手伝いとして、そして包丁を使う練習として。でも桃は特別。お中元などでもらう特別なくだものの桃は、大人しか触ってはいけない「特別」な存在でした。
桃は皮をむくのが難しいので、子どもにむかせたら食べるところが無くなる、という理由だったのだと思います。でも年月が経った今でも、桃をむくときにはちょっぴり緊張します。桃はうれしい、そして特別な果物です。
日本人と桃
かつて、お菓子というと果物のことでした。今でも懐石料理では「水菓子」として果物が出てきます。お菓子を多くの人が食べられるようになったのはごく最近です。お菓子である果物は、高貴な方しか食べることができない大変貴重なものでした。梅、柿など、種が大きくしっかりした果物は特に重宝されてきました。特に桃は不老不死の実、魔除けの力があるとされ、神事で供えられたり、お墓に一緒に埋葬されています。お店の軒先にならぶ桃の香りには道行く人が足をとめます。桃の香りは他の味を邪魔せず風味を良くしますから、加工品にもたくさん使われています。香水や芳香剤の代表的な香りでもあります。
数年前、奈良県で太古の桃に出会いました。桜井市の纒向(まきむく)遺跡は、弥生時代末期から古墳時代前期にかけての集落遺跡です。ここから二千個を越えるたくさんの桃の種が出土しているのです。昔からたくさんの人に愛される果物だったのでしょう。この鮮やかで愛らしい果物は、昔々から人々の暮らしの中にぽっかりと灯っていたのだろうと思います。そんな桃へのあこがれは、時を経て私たちの遺伝子にしっかりと組み込まれているに違いありません。
もっと気軽に!桃の食べ方
桃は皮をむかずに食べることはできないと思っていませんか? 実は皮ごと食べてもおいしいんです。「皮ごと食べるんですか?!」と、驚かれる方も多いことでしょう。スイカの皮を食べる人はほとんどいないと思いますが、地方によって、また家庭によっては桃を皮ごと食べる習慣があります。アレルギーの心配がなければ、水で洗って、産毛をさっと拭きとり、ガブリと噛んでみてください。完熟桃だとあふれんばかりの果汁をあますこと無く食べられます。かなりワイルドですのでタオルの準備をお忘れなく。桃のやわらかさと、しっかりとした皮の食感が何とも言えないマリアージュです。しかも桃は皮と実の間が一番美味しくて栄養もたっぷり。皮をむくのが苦手な人でも桃をおいしく楽しめる丸かじり&少し固めの桃が私のオススメです。
桃の産地に住んでいると、桃の季節は生活が桃であふれます。どこにいっても店頭にたくさん並んでいますし、都会で生活していたら想像できない、桃のおすそ分けも。カリカリがいいかトロトロがいいか。桃の食感は好みが分かれるところですが、桃の産地では品種に関わらずカリカリ桃を好む方が多いようです。小さい頃から畑でもぎたてを食べているせいでしょうか。
桃の季節は、なんとも幸せでうれしい季節です。