手しごとからうまれる干し柿の甘み、枯露柿を求めて石川県志賀町へ

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日本の風土に愛されてきた柿

柿の歴史は古く、中国で発見された約500万年前の化石が最古と言われています。地球上にやっと二足歩行の動物が現れたらしい時代が500万年前くらい、日本では琵琶湖ができたあたりです。そんな柿の木は、仏教と共に飛鳥時代ごろ渡日したという説があり、長い栽培の歴史があります。

柿

「柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺」正岡子規
「里ふりて 柿の木持たぬ 家もなし」松尾芭蕉

などなど、調べてみると柿をよんだ俳句や短歌がたくさん出てきました。日本の風土に愛され、暮らしに深く浸透してきた果実だなあと思います。

今では、フルーツの柿(生柿)として甘柿を食べるのが一般的でしょうか。もともと柿というとすべて渋柿のことで、焼酎を振りかけたり何かしら手を加えて渋を抜き、食用(さわし柿)とするのが通常だったそうです。母に聞いてみると、私の祖母は大きな日本柿をしばらくお米の上に置いて渋が抜けたころ、とろとろに甘くなった柿を食べさせてくれた、と話してくれました。

渋柿と甘柿の違いは、紅茶やワインなどにも含まれるタンニンという渋味成分です。甘柿は実が育ち熟していく過程でタンニンが変化し渋味を感じなくなるもので、この熟すと甘くなる柿は、日本の栽培の歴史のなかで突然変異して出来たものだそう。昔の人たちが柿をもっと美味しく食べようとしていたことを伺い知れるような気がしました。

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枯露柿という干し柿

枯露柿

「ころがき」と読みます。日本に古くからある保存食であり甘味、栄養豊富な日本のドライフルーツのひとつでもある干し柿の呼称です。地域によって「古老柿」や「弧娘柿」と書いたりもします。

ころ柿は、11月の始め頃に赤く熟した渋柿を収穫し、ヘタを残して皮を剥き、吊るして干します。刻々と変化する天候をみながら、冷たい風に2週間ほどさらし、さらに手もみをして1ケ月ほどかけて乾燥し熟成させます。このように干すことのメリットは、タンニンが舌で溶けないかたちに変化し(これを渋が抜けると言う)、酵素の働きによって糖度が増すこと。さらに保存力も高まることです。

美容と健康を考えて、おやつにドライフルーツを選ぶ方もいらっしゃると思いますが、干し柿にも期待できる効果があります。ドライプルーンやドライマンゴーのように食物繊維とβカロテン(ビタミンA)が豊富で、整腸作用や美肌を保つ効果があると言われています。また体内の余分な塩分と水分を排泄する働きのあるカリウムも多く、タンニンが血液の流れを良くしてむくみや高血圧などにも良いそうです。

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石川県志賀町の細川農園さんがつくる枯露柿

石川県志賀町志賀町

今回枯露柿のお話を伺ったのは、志賀町細川農園の細川宗弘さん定子さんご夫妻です。志賀町や能登のこと、石川県のことをたくさん教えてくださいました。細川さんのお宅は、山間に向かう細い坂の途中にあります。その目の前には、大きなサーキュレーターがたくさん置かれた干し柿小屋が見えました。能登半島というとやはり海のイメージがあり、大雑把に海辺の町を想像していましたが、志賀町は田畑や民家が森に囲まれているしずかな里山でした。

細川農園

志賀町周辺で栽培されているのは、この地域の固有品種である「最勝」「平核無」という干し柿専用の渋柿なのだそうです。初冬の季節になると、民家の軒先や干し柿小屋に、鮮やかなオレンジ色のカーテンのように柿がざーっと並びます。

志賀町は能登半島のいちばん細くくびれた場所に位置し、海からの距離も近く、冬場は適度に湿り気を含んだ海風が吹きます。細川さんが地の利だとおっしゃっていた、この特徴的な気候が、志賀町の枯露柿が美味しい理由です。乾燥が早くなりすぎずじっくりと熟成していくのだとか。志賀町特有の美しく濃厚な枯露柿がこうしてできます。

干し柿

枯露柿は、ビニール袋に密封し冷凍しておくと一年中美味しくいただけることを教わりました。中身がねっとりしていて、冷凍してもカチカチに凍ることがありません。そのままひんやりシャリシャリ食べても、それがまたびっくりするほど美味しいです。

その他にも、ヘタを取ってミキサーでピューレ状にしたものを、小分けに冷凍しておくと柔らかいシャーベットになります。私の知っている干し柿とはまったく違う食べ物で驚きました!これはお子さんや若い人が喜んでくれると定子さんが教えてくれました。夏場に疲れた身体がしゃきっと元気になるようなヘルシーなスイーツです。

干し柿にどういったイメージを持っていたか考えてみたのですが、母の話からもなんとなくおばあちゃんが好きだったな、ということが最初に浮かびます。「かき」が「菓子」の語源になっているという一説もあるので、お砂糖が一般的でなかった時代のちょっと特別な愉しみのひとつだったかなぁ、という想像もできます。今では、甘いものって溢れていますが、甘味にもいろんな種類があることを知って選んでみるのも面白いなと思いました。