もはや幻?三色赤飯とは
お祝いの席で欠かせない「赤飯」。伝統的な作り方は小豆の赤い煮汁に、もち米を浸し、煮小豆とともに蒸し「染米(そめいい)」にしたものです。行事食として全国的に広まり、各地の風習や文化が反映され、様々な赤飯が存在します。その中で福岡県柳川市に「三色赤飯」という珍しいものがあります。「三色赤飯」とはどんなものなのでしょうか。
なぜおめでたいと赤飯なの?
赤飯をどうしてハレの日やおめでたい日に食べるのでしょうか。それは古くから小豆の赤色が邪気払いや災いを避ける力があると考えられているからです。赤色は特別な意味があり「朱」や「丹」という別の表現もあります。
「朱」は位の高い色、「丹」は中心にあって大切なものという意味を持っています。このように赤色への特別な思いから、神様に赤米を捧げる風習が生まれます。赤米が食べられなくなると、うるち米より位が高いとされる、もち米を小豆の煮汁で赤く色付ける方法をとるようになりました。
このような風習が全国的に広まったのは、小豆が寒さ暑さに関係なく日本中で栽培しやすく、保存がきくからと考えられます。江戸時代後期からお祝い事に用いられるようになりましたが、それ以前は縁起を直すものとされ災いの後やお葬式の際に振る舞われた地域もあるようです。こうしたことから、小豆が必要というより赤い色が必要であり、特別な日であること、心の持ち方を変えることを意識するために、小豆の赤を使うという説もあります。
赤飯は基本的には小豆を使いますが地方独自のものもあり北海道の一部の地域では甘納豆を入れたり、千葉県では落花生を入れるところもあります。このように各地の郷土料理としても親しまれている赤飯ですが、福岡県の柳川市には「三色赤飯」という全国でもここだけの大変珍しい赤飯があります。
幻となりつつある「三色赤飯」
福岡県の南部にある柳川市は水郷の町。市内を縦横に堀が通る町です。その柳川市では10月に「愛嬌挨拶(えいぎょうえいさつ)」というお祭りがあります。その祭りでは赤飯を升に盛り、食べ歩くという風習があります。このお祭りは初代柳川藩主、立花宗茂公が浪人生活で放浪中、今の愛知県に行き、ある民家へ立ち寄った際に赤飯となますでおもてなしを受けたという故事にちなみ「思いやりの心」「みんな仲良く」という思いが込められています。
旧暦の10月の最初の亥の日に子どもたちが「えいぎょうえいさつ、なかのよかごと♬」(「愛嬌挨拶、仲の良いように」)と歌い歩きながら各家に立ち寄り一升枡に山盛りになり菊が飾られた赤飯となますをいただき、家々を回ります。「三色赤飯」はこの菊が飾られた赤飯をイメージしたようように、赤・黄・白の三色のうるち米ともち米が混ぜて作られたものです。
赤は小豆、黄はクチナシで色付けられています。黄色いご飯というのも珍しいのですが、これは大分県の臼杵市にある「黄飯(おうはん)」という郷土料理から伝わったのではないかと思われます。黄飯は赤飯に代わる祝いのご飯でした。愛知県名古屋市にもありますが、こちらは「きいはん」と読みます。立花宗茂公がおもてなしを受けたのが愛知県ということも何か繋がりがあるかもしれません。
三色赤飯を作ってみました
見た目にも可愛らしい三色赤飯ですが、今では存在を知らない人も多く、作り手が減っているそうです。正確なレシピがわからないのですが、少ない情報を手掛かりに見よう見まねで作ってみました。
材料
- うるち米:3合
- もち米:3合
- 小豆:大さじ3〜4
- クチナシ:1〜2つ
三色赤飯の作り方
前日準備
1.洗った小豆を鍋に入れ、たっぷりの水を注ぎ中火にかける。沸騰したら弱火で2〜3分茹でる。茹でこぼし、少しずつ水を入れて冷ます。(急に冷ますとシワが入るので少しずつ)小豆を鍋に戻し、かぶるくらいの水を入れ、沸騰まで中火。沸騰後、弱火で15分〜20分やや固めまで茹でる。小豆と茹で汁に分ける。
2.うるち米1合を小豆の茹で汁に一晩ひたす。(茹で汁が足りなければ水を加える)
3.残りのうるち米2合と、もち米3合はそれぞれ洗った後、別々のボウルに入れて一晩水にひたす。
4.クチナシは切り込みを入れて1Cほどの水に入れて色を出しておく。
当日:うるち米を蒸す
1.小豆汁に浸したうるち米は汁を切り(色がうるち米についている)蒸し器で約40分蒸す。
2.水に浸したうるち米2合も水を切り、蒸し器で約40分蒸す。蒸し上がったら均等に分け、半分にクチナシの実でとった黄色い水をかけてうるち米を着色する。
3.これで赤、黄色、白の蒸したうるち米ができました。
4.一晩水に浸していたもち米の水を切り、3等分にする。
5.赤、黄色、白のうるち米、それぞれにもち米を入れる。赤には茹でた小豆も入れる。
6.3色をそれぞれ蒸し器で約40分蒸す。
7.蒸し上がった3色を色の偏りがないように混ぜる。
ハレの日だからこそ「てまひま」を
柳川市は父の故郷です。これまで伝承されてきた三色の華やかなお赤飯がなくなっていくのは何とも忍びないと思い、今回あたらめてつくってみました。ハレの日だからこそ特別な気持ちで、手間ひまをかけて作る。そんな心の余裕が持てるようになりたいものです。
(文・写真 / ほし まさみ)