「私おせっかいなんです」
デニムのつなぎ姿がなんとも格好良い大西千明さん。高松市六条町で、コシヒカリ、ひのひかり、あきたこまち、もち米、といった4種類のお米を育てている女性農家さんです。
「できるだけ、おいしい新米を食べてもらいたい」という想いから、大西さんは、お客さんへの直接販売を大切にしています。お米の種類や精米の有無など、お客さんひとりひとりのリクエストにも丁寧に応えるそうです。「新米やからお水は少な目にね」、「大根もサービスしようか?蕪もあるよ?」そんな微笑ましい会話も、直接販売ならでは。
「何でもみんなにお裾分けしたくなるんです。そして、お裾分けするなら新鮮でおいしいものをあげたいんです。私、おせっかいなんですよね」そう照れくさそうに笑う大西さんのお話からは、どこまでも人を大切にする生き方が伝わってきました。
トラクターにも乗れない!農業未体験からの就農
香川県でご主人と出会い、農家に嫁いだ大西さんは大阪府出身。結婚後は長年会社勤めでしたが、農業を営んでいた義理のお父様が亡くなったことをきっかけに、本格的に農家としての活動をスタートさせます。「最初はトラクターにも乗れなくて、にっちもさっちもいかなかったんですよ。でも、怖い…とか、できない…とか、そんなこと言ってられないわって」
それまで、農業未経験だった大西さん。それでも、くじけずに農業を続けてこられたのは、周りの人の支えがあったからだと言います。「困ったことがあったら言ってよ」、仲間達のそんな言葉に大西さんは何度も励まされてきました。
「皆さんには、本当感謝しかないですね。ひとり農業ってよく言うけどね、農業って孤独やと続かない。やっぱり、ひとりだと挫折しそうになるんですよ。特に、農家に嫁いできた女性って、ひとりぼっちで『これからどうしようかな…』って不安でしょう。だから、私にできることがあったら何でも言ってね』って伝えてあげるんです。私がそうしてもらったように助けてあげないと」
大西さんは、時には若手農家さんのトラクターの練習に付きあうことも。「何でも困ったらお互いさまでしょう。人と人とのつながりで私の人生が循環してるって感じるんです」
女性農家としての生き方を次世代に伝えたい
大西さんは、農業だけでなく、女性農家としての在り方も日々模索しています。「力仕事は男性の方が得意かもしれませんけど、女性には男性とは違う繊細さがあると思うんです。事務処理とか、人脈作りとかは、もしかしたら女性の方が向いてるかもしれませんね。みんなのアイデア次第で、連携は取れるんですよ。自分のできる範囲で試行錯誤していくことが大切だと思います。」
さらに、女性ならではのこんなお話も飛び出しました。「女性はね、『農業をしていると真っ黒に日焼けするから、おしゃれもできない』って言うんですよ。でも、それは違うと思うんです。農業しながら、自分磨きして、おしゃれを頑張っても良いんじゃないかな」そう話す大西さんは、この日もキラキラと輝くネイルアートが印象的でした。「ジェルネイルは、爪先の保護にもなるので、定期的にネイルを楽しむようにしています。友人達からは、『本当に農業してるの?』ってからかわれますけど」そう笑う大西さん。
大西さんは、農業にも、人とのつながりにも、おしゃれにも、とにかく全力を注ぎます。一体何が、大西さんをこんなにも突き動かすのでしょうか。「農業を若い世代に継承していくためには、私達の世代が動いていかないとだめなんです。それは『見て覚える』ってことではなくて、辛いことや悩みがあれば、『私がなんとかしてあげる』って動くことなんです」
大西さんは、以前、悩みを共に乗り越えた女性農家さんからもらった、「救われました」という言葉が今でも心に残っているそうです。この人の背中を見て、どれ程の人が勇気づけられたのだろうー。大西さんは、そんなことを思わせてくれる素敵な女性でした。