結婚を機に夫婦で就農
香川県では希少ないちご「紅ほっぺ」を栽培されている江戸紫織さん。結婚と同時に、ご主人の両親が営む農園を継ぐことを見据えて、二人で農業に取り組むことになりました。農業未経験のお二人、ご主人はまずJA香川県のインターン制度で1年ほど基礎を学び、江戸さんは義両親の農園を手伝うことから始まりました。
農業の厳しさを小さな頃から見てきたご主人はプレッシャーや責任感から就農に躊躇していましたが、江戸さんは「何もわかっていなかったから逆に飛び込みやすかった」と言います。それでも農作物が相手なので、自分で計画が立てられないことや、自然に左右される苦労は絶えません。困った時には農家仲間を頼ることもあります。「先日もハウスが壊れた時にはご近所の農家さんに修理を助けていただいて本当に助かりました。」と江戸さん。
近くのみなさんと協力しあったり、同じいちご農家の方との情報交換も大切にしています。「刺激を受けるし勉強になります」と仲間の存在はとても心強そうです。就農17年目の現在は、農園の看板を手書きしたり、収穫用の台車を作業しやすいように手作りしたりと得意分野を生かしながら農業に取り組まれています。気持ちが落ち込んでいる時でも「ハウスの中に入ると元気になれる」という江戸さん。ぴんと張った葉っぱに触れ、赤く実ったいちごを見ていると「今日も元気に育ってくれているな」と、いつの間にかクヨクヨした気分もなくなっているそう。
農園の情報発信
日頃は、農作物に合わせた生活をしているため、夕方には食事をすませ、夜9時には就寝という生活を送っています。朝は5時に起きてゆっくり朝食を楽しみ、夜明けとともに収穫が始まります。農業を始めて、思わぬ体調の変化がありました。「悩まされていた花粉症が治ったんです。規則正しい生活って大事ですね」とはつらつとした笑顔で話してくれました。
そんな江戸さんが就農するときに不安に感じたのは、「周囲との関わりがなくなること」。
畑で作物と向き合っていると、周囲とのつながりやコミュニティが築きづらくなるかもしれません。そこで、気晴らしも兼ねて趣味のカフェめぐりすることに。周辺のカフェやパン屋さんを訪ねるうちにお店の方とも仲良くなり、今では江戸農園のいちごを使ったメニューが巡ったお店に並ぶようになりました。
週末にはマルシェなどのイベントにも積極的に出店しています。「生産者と消費者の目線は全然ちがうんですよ。お客様のニーズを聞いて両方の目線をもてると、いちご作りも変わってきます」とイベントでのお客様とのやりとりが日々の仕事にも生きているようです。イベントで江戸農園のいちごを知った方が、いちごを求めて農園まで足を運んでくださることも少なくありません。江戸さんはSNSを使って、いちごの販売情報や出店情報などを発信する、自他ともに認める江戸農園の広報部長。SNSを見たご近所の方が「ここで直接買えるなんて知らなかったわ」といちごを買いに来られることも。いちご狩りやイベントの様子、看板猫ちゃんなど、農園の雰囲気や江戸さんの人柄がギャラリーから伝わってきます。
人が集まる場所を作りたい
今後について江戸さんにたずねると、「品種や“いちご”と一括りにされずに、江戸農園のいちごが食べたい! と言ってもらえるようになりたい」とにこやかに話してくれました。
もうひとつ教えてくれたことがあります。それは、いちごやお米のほかに自家菜園で野菜も育てている江戸さんの目標は「人が集まれる場所を作ること」。自家菜園で育てた野菜を使って食事を出したり、いちごを使ったスイーツが並んだりするような納屋カフェを作りたいとご主人や友人と計画しています。
「わたしは料理担当で、スイーツ担当もすでにキープしているんです」と、カフェ巡りから広がった人とのつながりが、江戸さんの新たな夢を育んでくれています。