小豆島の自然に囲まれて、 豚と共生する暮らし/香川県・小豆島町 鈴木 博子さん

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セネガルの主婦から小豆島の農園主へ

鈴木さんは、2014年にご主人の母国であるセネガルから帰国し、鈴木農園を営み始めました。「子どもの頃からおじいちゃんが小豆島で農業をしていて、自然に囲まれた環境にいられることが幸せだったので、私もずっと農業がしたいと思っていたんです」。石川県立農業短期大学を卒業し、家畜に関する基礎知識はあったものの、就農前は専業主婦で経験ゼロからのスタート。養豚農家に相談し、作業も体験しながら、イメージを膨らませていきました。

鈴木博子鈴木博子

実際に就農して学んだことは、いくら段取りや計画をしても、自然相手では思い通りにいかないということです。「豚が言うことを聞いてくれなくて大変。私たちが毎日山の中を走り回っています」と笑う鈴木さん。今では、「やるべきことをやったら、あとは流れに身を任せています。お肉の注文が少ないときも、ギリギリになってパタパタと入ったりして、最終的にどうにかなるんです」とおおらかに構えています。

のんびり自由な養豚に広がる共感の輪

鈴木農園の豚たちは、豚舎ではなく耕作放棄地だった雑木林で飼われています。餌のほとんどは、島内の農家から出る熟しすぎた野菜や刈り取った草、残飯、素麺くずなどの食品残さ。「人間が食べきれないものを豚が食べて、人間が豚のお肉をいただく。この循環を守りたいですね」。

鈴木博子

山の中で自由に動きまわり、自然の食べ物を食べて過ごす豚たち。運動量が多いため、豚舎で飼われる豚よりも成長がゆっくりなのだそう。その分、出荷できる量も限られてしまいますが、「私は自然の中でくつろいでいる豚を見るのが好きなんです。沖縄の古い本を読んでも、豚は人間の残飯を食べて1年かけて大きくなると書いていました。それが自然の流れなのだと思います」と鈴木さん。

宣伝はとくにせず、SNSで農園での暮らしを発信しているだけですが、どこからか聞きつけた人が鈴木さんの考えに共感して全国から見学に来ます。それは、レストランのシェフや地方に移住して就農したい人などさまざま。

鈴木博子

最近では、小豆島にUターンした人が「鈴木農園の豚で生ハムを作りたい」と、加工・販売をはじめました。「島の魅力を伝えたい、というその人の想いから始まったこと。私もその想いは同じです。農業をやっていると、こういう出会いがあることがうれしいです」。加工品ができたことで、安定した販売も可能になりました。

自然を循環させて、より環境にやさしい放牧を

鈴木博子

その昔は、豚を飼う農家が多かったという小豆島。ところが、においの問題で住宅地との共存が難しくなり、その多くが廃業してしまったそう。「養豚のにおいを隠して、お肉のありがたさや命を感じずに食べていいのかな、と思います。においも含めて地域で受け止めることではないでしょうか。豚を食べてもらうことで、この問題を一緒に考えるきっかけになれば」と鈴木さん。月に2回の販売のたびに、想いをつづったお便りを書き、豚肉と一緒にお客さんに届けています。

鈴木博子

「豚も私たちと同じ命。兄弟ゲンカもするんだよ、うれしいときは尻尾を振るんだよ、と伝えたいですね」。放牧地では、豚が木に体をこすりつけたり地面を踏み固めたりするので、どうしても自然に負荷がかかってしまいます。今後は、「新しい放牧地を探して今の放牧地を休ませ、草木を再生したい。そしてまたその地で豚が草を食べて育つという、より環境にやさしい循環型の放牧養豚を目指しています」と鈴木さん。一緒に農園を営むご主人や、お手伝いをしてくれる3人のお子さんも一緒に、尊い命に日々向き合い、食べ物のありがたさを感じながら自然のままに暮らしています。

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