きめ細やかさが必要とされる梨作り
「わあ、大きい梨!」この日香川県三豊市にある梨農家、宮﨑和代さんの農園を訪れると、赤ん坊の頭くらいはありそうな梨が、たわわに実っていました。この梨は、愛宕梨(あたごなし)という品種。10月から11月頃に収穫時期を迎え、大きいものでは優に1㎏を超えます。宮﨑さんいわく、1ヶ月くらい追熟させると、もっと甘くおいしくなるのだとか。そのため、購入後に大事に保存し、お正月に家族みんなで味わうお客さんも多いそうです。
宮﨑さんの営む「平和農園」では、愛宕梨をはじめ、幸水やあき月といった10種類の梨と、ジャムなどの加工品を生産しています。「梨一玉できるまでに、10回以上も人の手が必要なんですよ」宮﨑さんがそう話すとおり、梨作りには、多くの手間と、きめ細やかな作業が不可欠。「梨の実は風でそよいだ葉で傷ついてしまうくらい繊細なので、一玉、一玉専用の袋を被せてあげないといけないんです。他にも、たい肥をあげて、草刈をして、剪定をして。一年中大忙しです」日本人には馴染みの深い梨。私達は、時期がくれば自然と実をつけるものだと、ついつい錯覚してしまいがちです。「当たり前のおいしさは、誰かの毎日の積み重ねによって生まれている」、宮﨑さんのお話を聞いて、思わずはっとさせられました。
ずっと見てきた両親の背中とお客さんの笑顔
宮﨑さんの農園に梨の木が植えられたのは、約20年前。それまで田んぼだった土地を梨農園にしようと、宮﨑さんのご両親が一念発起されました。しかし、「桃栗三年柿八年」という言葉があるように、果樹が実をつけるまでには大変な時間がかかるもの。当然、宮﨑さんの梨も、一朝一夕で今の状態になったわけではありません。「梨の木が実をつけるようになるまで大体5年、成木になるまでだと10年はかかるんです。特にうちの場合は、元々田んぼだった土地に植えたので、水はけをよくして、土を柔らかくしないといけなかったんですね。土壌の改良にすごく手間と時間がかかりました」
「自分の子どもに安心して食べさせられるような梨を目指して、当初から除草剤も化学肥料も使わずに、有機肥料で育てています。その分、どうしても手作業は増えてしまうのですが、安心安全なものをお客様に食べてほしいという想いをずっと大切にしています。」元々会社員だった宮﨑さん。そんな宮﨑さんが、ご両親の農園を継ごうと決断したのは、今から約9年前のことでした。「こだわって一生懸命やっている両親を見てきたので、この農園をなくしたくないなって思ったんです。その頃から徐々にお客さんも増えだしたので、その期待を裏切れないという想いもありました」
そこから宮﨑さんは、ご両親の下で農業について学び、今では「ここの梨しか食べられない」と、お客さんに言ってもらえるまでになりました。「農業って心が折れそうになることもあるんですけど、実をつけた時の喜びとか、楽しみにしてくれているお客さんの顔には、それを上回るものがありますね」見続けてきたご両親の背中と、お客さんの笑顔。その2つを胸に、宮﨑さんは今日も梨作りに励みます。
夢は大きく ゆっくりと着実に
宮﨑さんは、三豊市の女性農家で結成された「みとよ若嫁ファーム」に所属しています。イベントなどで三豊市の農作物をPRしており、最近では、「三豊市の名産品を作ろう」という話も持ち上がっているのだとか。農家のみならず、行政、企業とも力を合わせていければと考えています。さらに、宮﨑さんは、こんな話もしてくれました。「将来、収穫だけじゃなくて、そこに至るまでの農作業も体験できるような観光農園を作りたいですね。土に触れて、自分達が食べているものがどうやってできるのか、子ども達にきちんと知ってもらいたいんです」
どうやら、宮﨑さんの目標は、周りの人達にも、何かが還元されるようなものばかり。より多くの人を幸せにしたいと思えば、自然と目標も大きくなっていくのかもしれません。「もちろん、名産品も観光農園も、一からスタートするので時間はかかると思います。でも、できることを少しずつ進めて、徐々に形にしていくことができれば良いんです」ご両親がそうだったように、宮﨑さんも自分の目標に向けて、ゆっくりと、着実に歩を進めています。数年後、数十年後、宮﨑さんという木は、一体どんな実をつけるのでしょうか。