パートナーの夢に便乗しました
3年前に地元・小豆島で新規就農した向井愛さん。おもに柑橘類を扱う実都農園を夫婦で営んでいます。島外の大学を卒業後は小笠原でホエールウォッチングガイドをしていたという珍しい経歴をもっています。小豆島にUターンしてからは農業生産法人に勤務し、そこで農業を志すご主人に出会いました。母方の実家が柑橘とキウイの農家だというご主人は、子供ながらに耕作放棄地が増え、農業の担い手が減っていく現実に心を痛めていました。「なんとかしたい、柑橘農家になりたい!と強い思いをもつ主人に便乗したんです」と、ブラッドオレンジが色づく畑で話してくれました。
開墾からのスタート
三都半島にある大木がそびえる耕作放棄地を開墾するところから始まりました。当初、向井さんのご両親にはすごく反対されたそう。「農業では食べていけないぞ」「それでもやりたいの!」反対と説得を繰り返し、畑を開墾し始めた頃から徐々に手伝ってくれるようになり今は応援してくれています。畑を耕し始めると、いろんな人が声をかけてくれるようになりました。「誰が畑やってるの?」から始まり「あっちの畑でもやってみないか?」など親切にみなさんが声をかけてくれます。ある日、畑の隣に暮らす人がわざわざ電話くれて「イノシシが来てたみたいだけど畑は大丈夫?」と、気にかけてくれたときもあったり、温かい人が本当に多いんです。普及センターやJA、インターン制度で勉強していた時の師匠や地域の方に、教えを請いながら取り組んでいます。と向井さん。小豆島の暮らしやすさがうかがえます。
柑橘は苗木からのスタートで、収穫まで年単位で時間がかかります。生計を立てるには比較的早く収穫できる野菜も並行していこうと始めてみると、柑橘とはちがう野菜栽培のおもしろさに気づきました。「柑橘の成育次第で量は変わるかもしれないけど、野菜も柑橘も両方やっていきたいです」と楽しそうに栽培中のものについて教えてくれました。JAへの出荷と直接販売する2つの方法をとっているので、いろんなお声を聞けるのが楽しいし励みになっています。昨年買ってくれた人が「今年もお願いしたい」とリピーターになってくれたり、クチコミで広がっていったり。「子供たちに安心して食べさせてあげられるものを作りたい」と、減農薬や無農薬のものを生産しているので、こだわりをもつ方からのお問い合わせも増えてきています。
耕作放棄地を減らしたい!
現在、小豆島で農業をされている方も、あと20年もすればほとんどがリタイアされる世代です。その人たちが畑を手放せなければならないとき「向井に相談してみよう」と言ってもらえるような存在になりたい、としっかりした眼差しで島の農地の維持や発展について話してくれました。自分たちで開墾してみてわかったのは、畑が荒れるのはあっという間なのに再生するのはとても大変だということ。開墾していると近所のおじいちゃんがやってきて悲しそうに言うのです。「20年前はこんなに荒れるなんて思わなかった。山のずっと上の方まで段々畑があったのになあ」そういった声が減るように、少しずつ、少しずつでも畑を広げて再生に取り組み「次の代に繋げられるような形を作って後継者の育成に進みたい」という思いをもっています。まだ幼い二人の娘たちが「やりたい」と言ってくれたら理想だけど、ほかの人たちが手を挙げてくれたときに「できるよ!」と渡せる環境を作っておきたいんです。
これからのプランについて聞いてみると、きらきらした笑顔で答えてくれました。「ブラッドオレンジを小豆島の特産のひとつにしたいんです。そして三都半島を柑橘の里にしたい!」ブラッドオレンジを知らない人も多いので、まずは自分たちがしっかり作れるようになることが目標です。「作ってみたい」という人が出てきたら「一緒にやりましょう!」と言えるようにしっかりとした生産者になっておきたい。実都農園のWebサイトは向井さんの担当。自分たちの想いを伝えるツールとしてSNSも利用しています。「収量が安定したらwebでの販売もできたら」と思いはふくらみます。「実都農園のものはなんでもおいしいね」と言われたらうれしい。まだまだひよっこだけど将来的には。ね!と頼もしいパートナーと顔を見合わせて、向井さんはとびきりの笑顔を見せました。柑橘から広がる、家族と島の未来を夢描いています。