雨後のたけのこ
雨の翌朝、土屋農園にお邪魔すると、すでに焚き火の匂いがしています。雨上がりの木漏れ日が輝く竹林は、ザワザワと笹の葉が揺れ、時折かまどの薪がパチっと音をたて、ここが東京であることを忘れてしまいそうな風景です。東京都調布市にある土屋農園は、四季を通じて多品目の野菜を生産されています。
出荷するほか、農園前の無人販売所にも野菜が並び、居合わせた人同士が「トマト残り一袋だけど私もらっていいかしら?」などと、自然に声を掛け合う豊かな光景も見受けられます。そして、ご近所の皆さんが待ち望んでいる春だけのお楽しみが「たけのこ」です。
代々受け継がれる「釡茹でたけのこ」
たけのこが伸びていく向きからどのあたりを掘るか見定め、途中で折らないように根元からしっかり掘り起こすのがポイント。土屋農園では掘ってすぐにその場で茹でます。大きな樽に水を張り、土を落としたら穂先に向かって半分ほど包丁を入れて皮を剥がし、縦に切って準備完了。山になった皮はそのままにしておくと土に還ると聞き、あらためて自然の循環の素晴らしさを感じます。
朝一番、ご主人がかまどに火を入れ、米ぬかの入った布袋を入れてお湯を沸かします。同時に奥様がたけのこを掘り始めます。土屋さんのお父様の時代はドラム缶で茹でていたんだとか。世代交代とともに釡になると、底が丸いのでむらなく茹でられるようになりました。釡いっぱいのたけのこを茹でながら「あ~!あそこにもあったね!」と笑うおふたり。
二人三脚で「春のたけのこ仕事」
春は特別お忙しいのでは?と尋ねると、「まぁね。野菜は栽培しているけど、うちのたけのこはあくまで自然の恵み。毎年たけのこが出てきてくれることも、またこの時期を迎えられたって感じられることもありがたいと思うし、やっぱり楽しいから。」とおっしゃいます。ご夫婦で分担された作業の流れも、お二人のやりとりも、とっても自然であったかいのです。土屋農園のたけのこは、みんなに春の幸せを運びます。