春の味覚の王者といえば、なんと言っても「たけのこ」
「たけのこの内をたけのこといい、たけのこの外を竹という」
———といわれるように、たけのこはその時期で呼び名が変わります。食、工芸、生活用品など…たけのこは姿を変えて、日本人の暮らしの中に深く関わってきました。たけのこの魅力を知り尽くした、愛してやまない日本人ならではですね。そこで今回は、時代をさかのぼりつつ…竹にまつわる調理器具「鬼おろし」と「江戸のたけのこ料理」をご紹介します。
五感で楽しむ 鬼おろし!
ギザギザと 見た目がまるで鬼の歯のよう!その名も「鬼おろし」。通常のおろし器とは違って、歯の目がとても粗いので、素材の細胞を粗く砕くことにつながり、野菜の水分を失わず栄養をそのままいただくことができるのです。口に入れた瞬間「ザクッ!」と、素材のうま味がダイレクトに伝わってきます。いつもの大根おろしのような水っぽさがなく、甘みと味がしっかり強いのです。同じ食材とは思えない感動を覚えますよ!
鬼おろしの活用術
江戸時時代「鬼おろし」は、蕎麦道具とセットでも使われていましたが、現代でも、焼き魚や刺身のツマ、お鍋などにも活用できます。何より野菜の水分が出にくいため、こんもりと盛りつけることが可能です。小鉢に入れて、何か一つトッピングを加えれば、ちょっとした一品料理が完成です。
すりおろすものであれば、「山芋」などでも違った食感が期待できますね。
私は野菜のみじん切りの代わりに使ってみましたが、下ごしらえにも便利です。すり方には少しコツがいるので、片手でしっかり押さえて手前に引く感じで使いましょう。
江戸のたけのこ料理〜筍羹(しゅんかん)
江戸時代には、多数の料理書からもたけのこが登場します。当時、たけのこの定番料理と言えば「筍羹(しゅんかん)」が挙げられます。たけのこの軸をくりぬいて、魚やエビなどすり身、卵白などを混ぜて煮含めます。江戸後期ともなると、一般的に醤油が流通されるようになったので、現代のような煮物が登場しました。「炒める」「煮る」が定番になりがちですが、歴史をさかのぼると食卓に並ぶ調理法がバリエーション豊かに思えますね。
食べてよし、使ってよしのたけのこ。
今年の春は、古人(いにしえびと)に倣い、ゆっくりたけのこ文化で日本を味わってみませんか?
(文・写真:正野 美雪)