「加賀野菜」で守られた歴史
伝統野菜「加賀野菜」は、昭和20年より前から作られていた金沢の地や気候を活かした野菜の中から、平成9年に金沢市の農産物ブランドとして立ち上げた野菜たちのことです。
加賀野菜のブランドで、源助だいこんもなんとか守られた
石川県金沢市の南にある安原地区で、25年近く農家を営む松本充明さん。松本さんのおじいさんが加賀野菜「源助だいこん」の生みの親で、三代続く専業農家です。安原地区は砂地で、夏のすいかにも適した土壌で、他にも、葉牡丹やカブ、小松菜などいろいろな品種をほぼ家族経営でまかなっています。
源助だいこんは、割れや「す」が入りやすく作り難いので、現在主流の青首大根に作り替える農家が増えていったそうです。これは源助だいこんだけに限らず、他の地域でも似たようなことが起こっています。言い換えれば、土地固有の大根が消えつつあるのです。
源助だいこんも、絶滅の危機にあったと松本さんは言います。そんな中、加賀野菜としてのブランド化が支えとなり、今では20軒ほどの農家さんで、毎年約25万本の源助だいこんを作っています。「地域の財産」として、源助だいこんを途切れさせたくない!松本さんからは、そんな強い想いを感じます。
源助だいこんの魅力
源助だいこんは、“大根らしい大根”というのが魅力。旬はまさに冬。特徴は、短く、太く、かわいらしい見た目。味は、繊維質が少なく、水気が多く、肉質がやわらかいので、煮物やおでんに最適とのこと。
最近、金沢の地場のものを煮込んだ「金沢おでん」というブームがあるそうで、その中にも、源助だいこんが使われています。また、源助だいこんは焼酎にも使われており、まさに変幻自在です。
他におすすめの食べ方は、大根をピーラーで薄くむき、だし汁で作る「大根と豚のしゃぶしゃぶ」が絶品とのこと。源助だいこんの葉は、刻んで味噌で炒める、ごはんのお供「菜っ葉飯」がおすすめです。私も自宅でしゃぶしゃぶをしてみましたが、大根のみずみずしさと甘さが相まって、どれだけでも食べられそうな味わいでした。
金沢の農業を守りたい
源助だいこんは、金沢市の安原地区を中心に生産されていますが、平成7~8年に源助だいこんの農家が1軒になったことがあります。その時、松本さんは、日本の食文化が壊れていく危機感を強く感じたそうです。
地元の人においしさを知ってもらい、地元に根付いた野菜に成長してほしい
その体験が原体験となり、台風などの災害にあっても、1歩ずつ歩み続けてきました。ただし、どの地域も農業の担い手不足。ちょうど団塊の世代の息子「後継者」がいない現状です。そんな中、石川で新規就農した若手が奮闘している姿をみて、地域全体で支えあいながら、楽しく農業を続けていく仕組みづくりに取り組みたい、と松本さんは考えています。
現在松本さんは、消費者に長く源助だいこんの味を楽しんでもらえるように、露地栽培だけだった栽培をビニールハウス栽培にも拡大。ビニールハウスなどの施設を有効活用することで、旬を長くすることができたり、北陸のあられや雪からも守れるので一石二鳥と意気込みます。
――地域で食を作り、食の魅力をまずは地域に発信することで、担い手を作っていきたい。地域を家族のような温かな気持ちで包んでいるように感じる松本さん。食の未来を見据えて、松本さんは今日も野菜に、農地に、愛情を注ぎます。