宮重大根とは!?
冬野菜の主役と言えば「大根」大根には100種類以上の品種があると言われていますが、その中でも主流となって多く出回っているのが青首大根。現在、流通している大根全体の9割を占めていると言われています。根の上の部分が緑色に色付いていて、水分が多くシャキっとしていて甘いのが特徴です。
青首大根には沢山の種類がありますが、実は現在出回っている一般的な大根のほとんどが、愛知県の伝統野菜でもある「宮重大根」をベースに品種改良されたもの。この宮重大根が今の青首大根のルーツになっていると言われています。宮重大根は、昭和の初期頃までは多く栽培されていましたが、その後、白首大根が主流となり一度はその姿が消えてしまった存在。
そんな貴重な宮重大根を大府市で栽培している「あいち在来種保存会」の代表でもあり「種から国産」をテーマに、宮重大根の保存活動を行っている高木幹夫さんの畑へ行き、お話を伺って来ました。
「種から国産」・伝統野菜で日本の農業と食文化をつなぐ/愛知・高木幹夫さん栽培が広がり、新たな形で地域に根付く
宮重大根は、愛知県の春日村宮重(現在は清須市春日宮重町)が発祥の地で、江戸時代から栽培が始まりました。古い書物には宮重大根の名が度々登場していているものも多く、江戸時代のあるお殿様が宮重大根のふろふき大根を食べてその美味しさに魅了され、その後、献上品として納められていたと言われています。
明治の頃には周囲の地域でも栽培されるようになり、みずみずしくて甘く、シャキっとした歯ごたえが良い宮重大根は、当時は皮を剥いて塩をふって食べるのが人気だったとか。又、西から吹く冷たい伊吹おろしが吹き下ろす尾張平野では江戸時代から切干大根の生産も盛んで作られていました。今でも切干大根は尾張の特産品として親しまれています。
京野菜の聖護院大根も、実は宮重大根がルーツになっていると言われています。文政年間(1816~1830)に尾張から奉納された大根を農家が譲り受けたことがきっかけで栽培が始まったそうです。全く違う姿形に大きな意外性を感じますが、聖護院大根の大きくて丸い形は、根が深く伸びにくい土壌だったという事もあり、太くて短いものを選び続けてきたところ、段々今のような丸い形になっていったと言われています。形は全く似ていませんが、青い淡緑の首の色や、甘くみずみずしく、煮崩れしにくいところなど宮重大根らしさはしっかりと引き継がれています。
一度は消えてしまった宮重大根・残った種子で復活を目指す
江戸時代からずっと栽培されてきた宮重大根ですが、1945年(昭和20年)頃、病気や切干し用の需要減少に合わせて少しづつ栽培が減り、残念な事に一度消滅してしまいました。そんな宮重大根をなんとか復活させて残していきたいと、平成4年に「宮重大根純種子保存会」が設立されました。残念ながら、まだ純粋な宮重大根を見る事はできていないそうなのですが、少しづつ昔の宮重大根に近づいています。いつの日か純粋な宮重大根が復活できることを願いながら、そして地域の伝統野菜を残していく為、これからも保存会の皆さんの取り組みは続きます。
文・野菜ソムリエ・ナチュラルフードコーディネーター/桜井さちえ