石川で平飼い卵にチャレンジ、山ん中たまご園/石川・加賀市 堂下慎一郎さん

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「本格的に農業の勉強をしようと就職」、運命の出会いが


石川県加賀市黒崎町にある、平飼い養鶏場「山ん中たまご園」を営む堂下慎一郎さん。養鶏場を始めたきっかけを尋ねると、「子どもの誕生を機に、本格的に農業の勉強をしたいと思い、福井県にある農業法人に就職しました。そこで“平飼い養鶏”と出会ったことがはじまりですね」と丁寧に話してくれました。


平飼い卵山ん中たまご園

鶏たちがストレスなくのびのびと動き回ることができる、“平飼い養鶏”に魅了され、だんだんその必要性を感じるようになり、いつか自身で養鶏場を営む構想を練っていたといいます。

地元での新規就農、不安や障壁はなかったのでしょうか?


堂下さんは、「想像を越えるような大きな反対もなかったので、不安はなかった」と言います。それは、「卵が1個50円くらの販売で運営できている実績を見てやっていける自信と、漁業協同組合の準組合員として、素潜りで海産物をとる仕事と田畑があれば、食料は自分で育てて食べられる」という思いが根底にあったからでもあります。

石川平飼い卵

そして、現在はさらに養鶏場とは別に、4~8月にかけて素潜りで海産物をとって卸し、夏場には黒崎海水浴場で、素潜りで採ってきたサザエや岩ガキなどを提供する「浜茶屋入のや」も営業しています。今年の夏も多くのお客様でにぎわい、忙しいけど充実した時間だったことが堂下さんの表情からうかがえます。夏場限定で建つ堂下さんの小屋の目の前には日本海が広がっています。



生産、消費を地産地消で循環させる!それが1番のこだわり


輸入の遺伝子組み換え飼料を使わず、完全国産飼料化を実践している点が注目されている堂下さん。餌の原料は業者からは買わず、地元農家などから直接譲ってもらっているといいます。普段私たちが記憶している卵の色は、朱色やオレンジ色といった赤に近い色の印象ですが、堂下さんの育てている鶏が産む卵は、雑味のない透きとおるような淡い黄緑色をしています。そのままプレーンオムレツで食べるのが堂下さんのオススメ。新鮮な生卵をそのままつるんと食べたり、すこし熱を加えて半熟にしたり、卵を主役にいろいろな食べ方を楽しむことができそうです。


一般的に鶏の飼料の中心となっているのはトウモロコシです。トウモロコシ(黄)にパプリカ色素(赤)を加えることで、卵がオレンジ色になります。山ん中たまご園で飼料の中心に選んでいるのは、お米と大豆。お米と大豆だけを食べた鶏が産む卵は真っ白になります。飼料には粒の小さいものや精米機で出る割れたお米、古米などを農家さんからわけていただいているものを使っています。お米と大豆に刈草や葉っぱなど緑のものを加えることで、ビタミン、ミネラル、食物繊維を補い、鶏が欲する動物性たんぱく質を加えることで鶏の健康管理もしています。動物性たんぱく質をどのように加えるかによっても卵の臭みに影響してきます。


飼料飼料を活かす

堂下さんは「商品にならない野菜、甘エビの加工くずなどが、ばんばん廃棄されているのを目の当たりにしました。もったいないです。販売できなくても、それらには飼料的価値がかなりあるんですよ」といいます。


廃棄されてしまう地元の素材を活用して、鶏を育てたいという思いが、結果として完全国産飼料化に結びついているのです。


伝えたい石川の魅力!薬に頼らない自然栽培


石川

「とにかく恵まれています。山、海の質が素晴らしい!山菜もいいし、魚の質もとてもいいんです!」石川県全体の魅力を伺うと、嬉しそうに答えてくれました。堂下さんの住む加賀市は、山と海に囲まれた町。養鶏、素潜りと生業すべてが自然の恩恵を受けているからこそ、日々その魅力を肌で感じられているそうです。


その一方で今後の課題を伺うと、「畑や田んぼで使用されている農薬ですね。大量に使っていると、自然循環の中でいつかバランスが崩れ、どこかに歪みが生まれてしまうと思うんです」と話す言葉には真剣さがうかがえました。歪みが出てしまわないよう、自然栽培を普及させたいと、切に願う堂下さん。現在、仲間と共に、無農薬無肥料で野菜を育てる方法を伝えるワークショップや、農活(農業者と消費者が集い、農業者の活動を紹介する企画)を定期的に行っています。


「これから新しいことをはじめるのではなく、今やっていることを継続して、少しずつでも自然栽培の大切さを伝えていきたいと思っています」
――”自然循環の中に暮らしがある”そんな堂下さんだからこそ、限りある自然を大切に守っていきたいという、真摯な気持ちが伝わってきました。


山ん中たまご園堂下さん

文・松本香織 写真・植木晋也


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